
不動産と家族信託 (1) 不動産の相続に強い!家族信託のしくみと効果
高齢化社会の今、認知症になる人は65才以上の7人に1人といわれています。認知症と診断されると、財産の管理が困難になり、不動産資産を貸したり売却したりすることも難しくなってしまいます。
そのような中、「家族信託」という方法に注目が集まっています。遺言や相続よりも取り組みやすく、不動産の名義を家族に預けることでスムーズに管理・運用が可能に。そのしくみと効果を、司法書士の中村昌樹先生がわかりやすく解説します。
(監修:司法書士 中村昌樹先生)
不動産は管理が難しい資産
不動産は価値が大きい資産です。一方で、管理や承継に相応の手間がかかります。固定資産税の支払い、維持管理や修繕、賃貸に出せば入居者対応や契約更新など、多くの管理業務が発生します。
特に問題となるのが、不動産を所有する本人が認知症と診断された場合です。不動産の売却や貸出には「本人の意思確認」が必須ですが、判断能力を失うと手続きが進められず、事実上の資産凍結状態となってしまいます。結果として、「不動産を売らないと介護費用が賄えないのに」「先に相続対策をしたいのに」といった、介護費用の捻出や相続対策が大きく滞るケースも少なくありません。

家族信託とはどんなしくみ?
こうした不安を解消する制度が「家族信託」です。
家族信託とは、財産の所有者であるご本人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に名義を託し、管理・運用を任せる契約のこと。財産そのものの権利(受益権)はご本人(委託者)が持ち続けるため、実質的には本人の資産であることには変わりなく、家族がご本人に代わって、ご本人の利益のために活用することができます。
不動産の場合、登記上の名義をご家族(受託者)に移すことで、そのご家族が次の借主を見つけて契約したり、不動産を売却して介護費用や生活費に充てるなどすることできるようになります。登記上の名義が変わったとしても権利はそのままで、家賃収入や売却代金は受益者であるご本人に還元されます。

不動産信託のメリット
不動産を家族信託に組み入れると、次のようなメリットがあります。
- 資産凍結を防ぐ:認知症発症後も売却・運用が可能
- 生活費を確保:賃貸収入を本人の生活や介護費用に充当できる
- 相続対策にも有効:契約で二次・三次の承継先を決めておける
- コストの軽減:成年後見制度に比べて、裁判所関与や専門家への報酬が不要
たとえば「親が施設に入るために自宅を売却したい」という場面でも、家族信託を組んでいれば子どもが代理で手続きを進められます。

家族信託で管理・承継をスムーズにできる理由
認知症に認定されてしまった後でも、家庭裁判所の監督下で、後見人が本人の財産を守る「後見制度」を利用することはできます。しかし、成年後見はあくまでも資産を「守る」ものであって、自由に活用することは難しく、裁判所の監督下に置かれるため手続きが煩雑です。それに加えて、後見人は弁護士や司法書士などが任命されることが多く、毎月の報酬を負担する必要があります。

家族信託は不動産の売却・賃貸・建替えなど柔軟に対応でき、さらに遺言のように承継先を決めておくこともできます。
高齢者にとって、不動産は家族の生活基盤のひとつになり、相続でも重要なテーマとされる資産です。家族信託を活用して認知症による利用制限を防ぐだけでなく、スムーズな世代承継まで見据えた準備ができるのです。
家族信託は、高齢化にフィットした、現実的な制度と言えるでしょう。

まとめ
不動産は大きな価値を持つからこそ、認知症によって資産が活用できなくなるリスクの高い資産です。「家族信託」を導入すれば、信頼できる家族に名義を託すことで、管理・運用をスムーズに行えます。家族信託をすることで不動産の賃貸や売却やも可能なため、生活資金や介護費用を確保しつつ、相続対策にも活用できるのが大きな特徴です。成年後見制度や遺言に比べても柔軟で、長期的に安心できる仕組みといえるでしょう。
次回予告
次回は「認知症で資産が使えなくなる事態を防ぐ方法」を取り上げます。親が認知症になると銀行口座や不動産を運用することが難しくなり、介護費用や生活資金が使えなくなるリスクがあります。家族信託ならその問題をどう防げるのか、司法書士の視点から具体的に解説します。
不動産管理の今後に不安を感じる方は、早めに司法書士へご相談をおすすめします。

この記事を監修した人
中村 昌樹 先生(司法書士)
東京司法書士会無料相談員
1977年静岡県浜松市生まれ 1996年早稲田大学商学部入学 2009年に新宿区で司法書士登録・開業。趣味はキャンプ、イラスト作成、スポーツ観戦。一期一会のご縁を大切に、お客様にとって最適なサポートを提供し「お客様の人生においても身近で頼られる司法書士」をモットーに業務を行っている。
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